杉原たみさん(70回生)
Tammy'sTreats 主宰
2019年11月15日
第2回交流会でミニ講演をして下さる杉原たみさんを紹介します。
”Friendly,Fair,andFashionable"をモットーに、作り手も買い手も幸せな気分になれるおしゃれ雑貨のセレクトショップ「Tammy's Treats]」を主宰する杉原さん。国連職員時代に訪れたタイの田舎で仲買人に搾取され貧困から抜け出せないでいる女性たちの手工芸を支援し、フェアトレードのセレクトショップを立ち上げました。
扱う雑貨は、色鮮やかなおしゃれな物が多く、フェアトレードや社会貢献をうたわなくても通用する魅力的な商品。生産者へのフェアーな取引は作業意欲とともに品質の向上につながります。貧困や搾取という社会的な課題の解決につながる活動に、微力ながらも私たちが関われるチャンスを取り次いでくれる活動や意識についてお話を伺いました。
杉原たみ 70回生
アメリカン大学応用人類学修士課程修了。
国連の中でも最も現場主義といわれる難民高等弁務官事務所(UNHCR)に入り、約10年間フィリピン、タイ、ミャンマーなどの現場で難民支援に従事。帰国後は国際協力に関する活動に携わる。
2009年に「Tammy's Treats」を立ち上げ、2013年にはオリジナルブランド「DAIFUKU PROJECT」をスタート、デザイナーとのコラボによるオリジナル商品の企画、開発、生産に着手。モノ作りを通じて世界の人と人を笑顔でつなぐことを目指して活動中。
・著書「国境という現場から―国連職員として難民支援に携わった日々」(2005年 文芸社)
・ホームページ「Tammy'sTreats」
現在の職業について簡単にお教えください
フェアトレードによるファッション、ライフスタイル雑貨の企画、開発から、生産、販売を行っています。生産地は主にタイとカンボジアで、現地のフェアトレード団体や村人たちなどと顔の見える関係を築くなかで、アクセサリーやバッグ、ストールなどの商品開発や買い付けなどを行い、日本のマーケットで販売しています。
フェアトレードとは、もともとは発展途上国で作られた商品を適正な価格で取引することで、生産者の自立につなげる貿易の仕組みのことです。児童労働を認めないとか、環境に配慮し生産者の健康を守る、などの原則がありますが、こうしたことに目配りしながら事業として成立するよう取り組んでいます。また、「フェアトレードが当たり前」となるような社会をめざして、啓発的な活動にも取り組んでいます。
国連職員時代の一番心に残った出来事は何ですか?また現在のフェアトレードの活動を立ち上げようとしたきっかけは?
心に残る出来事は色々ありますが、一番嬉しかった思い出としては、今から20年ほど前、タイの国境沿いにあったカンボジア難民のキャンプでUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の職員として働いていた時のことが挙げられます。難民キャンプの長期化が懸念されるなか、ある日突然、難民のリーダーによばれ、「故郷のカンボジアに一刻も早く帰還したいからサポートしてほしい」と言われたのです。本国で政治的な決着がつき、帰還できる条件が整った。難民たちはほとんどが農村部出身なので、雨季が始まる前のタイミングで故郷に戻りたい。そうすれば田植えに間に合うし、生活の再建も円滑にいくから協力してほしい、というのです。リクエストに応えるべくスタッフ全員で力を合わせ、自主帰還をサポートするプログラムを大急ぎで計画し、実施しました。難民たちは笑顔で次々と帰還、あっという間に数千人規模のキャンプが空になりました。これはUNHCRが世界各地で実施してきた自主帰還プログラムの中でも、きわめてスピーディに策定、遂行、完了できた珍しいケースの一つと聞きました。私としては何よりも帰還していく難民たちの要望に応え、彼らの本国での新しい生活に向けた一歩を踏み出す手助けができたことが嬉しく、一番の良い思い出として残っています。
また現在のフェアトレードの活動を始めるきっかけですが、同じ頃、タイの地方で勤務していたときのエピソードがあります。休日にドライブに行き、立ち寄った道路わきの掘っ立て小屋の中で数名の女性たちが機織り機に向かっていました。美しい織物を見せてもらい、何枚か購入しようとしたところ、女性の一人に「あなたみたいな人が私たちの織物を買ってくれればいいのに…」と言われたのです。聞けば彼女たちは仲買人に織物を卸すことで現金収入を得ていて、工賃として得られる金額はほんのわずかな様子でした。彼女が私に提示してきた織物の金額は驚くほど安かったのですが、仲買人にはそれよりさらに低い価格で卸していることを知りました。その時、このような「買う」というシンプルな行動でも喜んでくれる人がいる、それなら私にでもできるかもしれない、と思いました。それまで、仕事を通じて難民や貧困などの難しい課題に向き合う中で、「自分は一体何ができるんだろう?」と自問自答を繰り返していました。でも、この一件をきっかけに、自分でもできる協力の仕方がある、と思えるようになりました。
杉原さんが思う社会貢献とは?
社会や人々が抱える様々な課題や困りごとの解決に役に立てたと実感できた時に「社会に貢献できた」と思えるのではないかと思います。社会貢献の内容やタイミング、方法などは人それぞれです。私に関していえば、過去に難民支援など国際協力の仕事に携わる中で生まれた問題意識から、社会的に弱い立場にある人々の経済的、社会的自立を「援助」ではなく「ビジネス」として後押しする取り組みとして、フェアトレードに関心を持ち、今の事業を通じて実践しようとチャレジしているところです。ゴールはまだずっと先ですが、将来自分なりに納得のいく成果を挙げることができれば社会に貢献できたと思えるようになるかもしれません。今はまだ目指すところの入り口に立てたか立てないかのところだと思っています。社会に貢献したいという気持ちはありますが、達成できるかどうかは今後の取り組み次第と思います。
社会貢献についての考えの根っこについて聖心での教えがあるとしたらエピソードを教えてください
これといったエピソードは思いつきませんが、キリスト教の価値観に基づいた教育方針のもとで学ぶなかで、大学を卒業するときには自然と将来は社会の役に立てるような仕事に就きたいと思うようになりました。折々のごミサや祈りの時間、宗教の授業や奉仕活動など、聖心での学校生活を送るなかで「社会の役に立つことは良いことだ」という価値観がごく自然に形成されていったのだと思います。社会に出て、全く異なる価値観を持つ人たちが多くいることを知ってはじめて、自分の価値観が聖心での教えに根差していることに気づかされたという感じです。
杉原さんが今興味を持っていること、そして次に取り組みたいと思っていることなど、今後のご自身のライフデザインについてお話しください
今の仕事はライフワークだと思っています。大変なこともありますが、自分の興味のあることなのでストレスなく楽しく取り組んでいます。一方で先ほど述べたとおり、これまでの経験から芽生えた問題意識が常に根底にあることに変わりはありません。つまり、「援助」というアプローチでなくても「継続的なビジネス、事業」を通じて貧困や格差といった社会的課題の解決に貢献することは可能だろうし、その方がむしろ効果的なのではないか、というような問題意識です。これをベースに今はひたすら実践し、自分なりに納得のいく成果を上げたいと思っています。それが達成されるまで、この仕事は続けるでしょう。まずはビジネスとしてきちんと成立、持続させること、そして生産に携わる人々に還元することで、暮らしの安定につなげること。より多くの人々に、仕事の機会を提供することで共に成長したいと願っています。
それから、ともすると気づくと上から目線になりがちなのですが、より厳しい状況に置かれた人たちに対して手を差し伸べているつもりでいても、実はそうした人々に助けられ、教えられていることが過去にたくさんありました。もちろん今もたくさんあります。そんな学びをこの先、何らかの形で周りにも伝えていきたいと思っています。グローバル化した今、遠い国々で起きている問題でも、私たちの暮らしと無関係とは言えない時代です。人々が国境を越えてお互いに協力し、学び合う、そんな橋渡しを自分なりにこの仕事を通じて出来たら嬉しいなあ、と思っています。
記事作成 永木素女(66回)