Alumnaeの活躍を知るVol.2


辰野まどかさん(82回生)

一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)代表理事

2019年5月14日

ごく普通の高校生活を楽しく過ごしていた辰野さん。17歳の誕生日にお母様からプレゼントされた海外体験を転機に、自分の中にある「何か」が目覚め、可能性が広がったと。大学時代は「東南アジア青年の船」に乗り、また1年間大学を休学して世界を回りボランティア活動に励み、在学中に訪れた都市は100か所以上。現在のグローバル教育の仕事の礎は自らを実験台にして築いた。

辰野まどか みこころ会82回生

聖心女子大学卒業後、コーチング専門会社勤務を経て、米国SIT大学院に留学。異文化サービス・リーダーシップ・マネジメント修士号取得。

その後、米国教育NPOにおいてグローバル教育コーディネーター、内閣府主催「世界青年の船」事業コース・ディスカッション主任等を通して、世界各地で多国籍チームとグローバル教育を実践。

2012年末にGiFTを設立。 現在「トビタテ!留学JAPAN」高校生コース事前事後研修やアジア7カ国を舞台にした海外研修等、中学・高校・大学・企業を対象としたグローバル・シチズンシップ育成に関するプロデユース、研修、講演等を行っている。

2016年より     東洋大学食環境科学研究科客員教授
2015年より   「持続可能な開発のための教育(ESD)円卓会議」委員
2011-2015年   明治学院大学国際学部国際キャリア学科非常勤講師

                        (Community Development-Service Learning-担当)


地球志民(グローバルシチズン)の意識を引き出し世界をつなぐ

―― グローバル・シチズンシップ育成というお仕事の具体的な内容を教えてください

 

辰野(以下敬称略) GiFTでは、グローバル・シチズンシップを「世界をよりよくする志」と呼んでいます。人それぞれに元々あるその志を引き出し、繋いでいくことをミッションにしています、が、抽象的でわかりにくいでしょうか?---ですよね(笑)。

数年前に「最近の若者は海外志向が減り、内向き」とメディアなどで言われていましたが、それには、経済的な理由もありました。そんな学生の願いをバックアップするのが「官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム~」です。大学生、高校生、それぞれ年間約800人に対して、民間企業等から海外留学資金がサポートされます。GiFTは、トビタテ!の参加者や、留学する高校生、大学生に、「事前事後研修」を行なっています。「ただ海外へ行く」のではなく、どんな志で世界に出るのか、この経験を社会、世界にどう生かして行くのかを丁寧に話合う場づくりを通して、若者の本当の思いを引き出し、未来に繋げるお手伝いをしています。

 

―― GiFTではその研修のプログラムを担っていらっしゃるのですね。

 

辰野 はい。学生たちが目を輝かせて、変わっていく様子を見るのは嬉しいものです。もう一つ大きな柱が「Diversity Voyage」という短期海外研修です。ブータンを含め、世界7か国で開催しているのですが、各地でより良い社会作りに尽力する社会起業家の方々の生き様と挑戦を学びながら、現地の大学生と日本の大学生がその挑戦やテーマに関して話し合い、課題解決のための教育プログラムやアイデアを作り上げていくというものです。例えば、ポルポト政権時代により教師が激減し、体育や美術の授業を受ける機会のないカンボジアの小学生たちに、カンボジアと日本の大学生が協力してスポーツを教えるといった具合です。スポーツを通して子供たちは、共同作業や協力するということの尊さを学びます。

 

―― 国を超えて、大学生同士が一つの問題に取り組むというプログラムなのですね。

 

辰野 はい。すでに国内外で1,000人以上の学生が参加していますし、学生だけではなく、この波は企業や自治体にまで広がっています。この体験が、参加者の、今後どうやって自分の人生を生きていくかの手がかりとなればと、願っています。実は、その二つの柱を貫いているのが、今注目されているSDGsSustainable Development Goalsの略。2030年までに実現すべき目標として、貧困、教育、環境、平和など、国連が定めた17のゴールのこと)という指標です。先ほど話した、Diversity Voyageのテーマも、教育、環境など、すべてSDGsに準じています。

 

―― シスター大山も卒業式の機会などを通じて学生たちに、学年カラーをSDGsの色に重ねて目指すべきもののお話しをされているようですね。

 

辰野 そうした中でごく自然に世界の問題、そして自分にできることは何なのか、という考え方や価値観が身につくのだと思います。それを持って大学へ進み、その芽を育てていくことが大切ですね。感受性が豊かな若い時代に知らなかった世界を体験し、その体験をもとに考えるということはとても重要です。少しでもそのお手伝いができればというのがGiFTなのです。

きっかけは、17歳のお誕生日に母からプレゼントされた海外体験

―― 辰野さんが目指されている、グローバル・シチズンシップ育成の概要がわかってきました。ご自身がグローバル・シチズンシップという概念に目覚めたきっかけは何でしたか?

 

辰野 中・高生の頃は毎日が楽しくて、というごく普通の生徒でした。アムロ世代ですから(笑)。英語も苦手だし、海外にも興味ない、帰国子女の友人を見てどうせ私は無理、と思っていたんです。転機となったのが、17歳の誕生日に母から、「スイスでの国際平和会議に3週間出席する権利をプレゼントします」言われたことでした。いわば無理やり参加させられ、言葉もわからず、歴史もわからず、辞書を引き引きいろいろな会議に出席したわけです。参加者は世界のあらゆる国と地域から、日本人はごく少数、戦後50周年だったこともあり、多国籍の参加者との対話で、日本人として知らなかったことに直面することも多く、めまいの起こるような体験でした。3週間を過ごした最後に小さな会議で意見を求められ、「世界各地の人々が集まり、世界をいかに平和にしていくか話し合う場はすばらしいと思いました。これからもこういう場が続いてほしいと思います。」と言ったところ、正面に座っていたおばあさんがぶるぶるとふるえだし、「続いてほしいではなく、あなたが続けていくんでしょう!」と怒鳴られました。それで、私の何かのスイッチが入ったんです。

「平和は誰かが作ってきたから、今ここにあるんだ。そういう大人にならなければ」ならないと。

今回、インタビューに際してその頃の日記を読み返したのですが、その熱さには自分でも驚きました(笑)。

 

―― その思いをどのように形にしていったのでしょうか?

 

辰野 高校3年から大学生の国際協力サークルに参加していました。その頃、シスター棚瀬が近くにいらして本を貸してくださるなど応援してくださいました。大学時代は内閣府主催の「東南アジア青年の船」に乗り、さらに大学4年では1年間休学してアメリカのUp with Peopleに参加し、世界70都市を回り、ボランティア活動に励みました。ほかにも、様々な活動をしていたのですが、いくら志が高くとも、経営がうまくいかなければ事業として成り立たないという経験をしたので、coach21(現COACH A)に就職しました。丁度会社急成長した時期でこのまま身をおいても?と、考えたりもしたのですが、昔の友人たちが、「まどか、グローバル教育って言ってたよね」と、グローバル教育への気持ちを奮い立たせてくれました。そして、グローバル教育を学びに、アメリカのSIT大学院へ留学しました。実践を重んじる校風から、在学中に、Up with Peopleに就職したり、色々な活動をしてしまったため、なかなか修士論文がかけずに卒業までには時間がかかりました。

 

―― その後、いよいよ、GiFTの立ち上げとなるわけですか?

 

辰野 帰国後は再度内閣府主催「世界青年の船」事業で3年ほど働き、その後多くの方の応援のもと、GiFTを立ち上げることができました。とはいえ、最初は、カフェをオフィスに企画書を書いたり、打ち合わせをしたりという規模だったのですが、コーヒー代を貯めればシェアオフィスが借りられるかもと、目黒のビル(現在のオフィスビル)に移り、共同のデスクから、個室、そして、少しずつ大きい部屋へと移り、今に至っています。7年目を迎え、現在国内外のスタッフと共に、各国の組織とつながりながら働いています。春休みと夏休みは毎週スタッフが海外に飛んでいるような状態でGiFTは大忙しです。

やらなければ…ではないボランティア活動への向き合い方は、三光町で素地が作られた

――現在までの活動に聖心での教育が影響していると思われることはありますか?

 

辰野 国際平和会議から帰国したあとに、その感動を友達や先生方に話をしたときに、違和感を持たれず、共感してもらえたということは大きかったと思いますね。きっかけは国際平和会議でしたが、すでにその素地は三光町で培われていたということなのだと思います。現在講演活動などでさまざまな学校や学生に接しているなかで、ミッションスクールは概して、SDGsの理念に対する親和性が高いのではないかと感じています。ボランティアに関しても、やらなければと構えるのではなく、ごく自然に身についているようです。

コミュニティをいかに作るかが大事な時代、みこころネットワークを活用する意義は大きい

―― 社会に出て活躍していらっしゃる今、みこころネットワークや同窓会に求めることはありますか?

 

 辰野 これからの時代、コミュニティをいかに作るかということがとても大切になってくると思います。経験したからこそ繋がれることって、たくさんあります。共通の体験や活動、また、その活動を分かち合うための言葉…。今、自分は何がしたいかということで、つながれるコミュニティというのは、今後、ますます意義が大きくなっていることでしょう。みこころネットワークを通じて、そうした繋がりが作れるのであれば、とても素敵なことだと思います。


インタビュー&記事   小松宏子(63回)